メールマガジンvol.6
2018年3月
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この冬の身がきしむ寒さ、そしてこの国と同様に不透明で先行きの見えないヨーロッパ情勢に、
今後自らの進路の方向性が定まらず、冬眠前のリスのように右往左往、すっかり翻弄されて間遠いて
しまいましたが、メールマガジンをお届けします。
平昌オリンピックでは、日本勢が過去最高のメダル数獲得とのこと、大活躍でしたが、私の大学留学先、
オーストリアは音楽だけではなく、ウィンタースポーツ、特にアルペン大国として知られていて、冬になると
各地で開かれている大会でのオーストリア人選手の活躍がテレビと紙面を賑わします。演奏家は手が命、
けがの危険の多いウィンタースポーツをやる人は少ないのですが、私は他の運動をまったくの音痴でも
スキーだけは小さい頃から家族に連れられて滑っていたせいか、唯一「できる」と口にできるスポーツのため、
留学期間中ウィンターシーズンが始まると、喜び勇んで本場アルプスのスキー場に足を運び、
基本3局しかないTV局(当時)がこぞって放映するスキーの試合を興奮して見ていました。
今回のオリンピックアルペン競技でもオーストリアは若手アルペンのイケメンスター、
マルセル・ヒルシャーが男子回転、アルペン複合で金、他男子大回転、女子も回転、大回転など
多数のメダルを獲得していましたが、留学して初めての冬季オリンピック、2006年トリノオリンピックでの
オーストリアの勢の活躍はすさまじく、ちょうど2月は大学が休みのため、昼間からテレビの前に陣取り、
夢中で観戦したことを思い出します。
2006年はモーツァルト生誕250年の記念の年でもあり、なんといってもオーストリアの誇るこの国民的
大作曲に関するイベントが年明けより目白押しで、モーツァルトの誕生日が1月27日、オリンピックより
少し前だったことも関係して、その時期のメディアに、何かとオリンピックとそしてモーツァルトの話題が
上ることが多かったのですが、コンサートでも時々話をするのですが、モーツァルトとアルペンスキーに
関連して忘れられない話があります。
当時、ヘルマン・マイヤーという、不世出のオーストリアでは英雄的なアルペンスキーの選手がいて、
(今回大活躍したマルセル・ヒルシャーはその後継者といわれている。)トリノの時すでに30代後半、
絶頂期は過ぎたと言われながらも、イチローのように誰もがその名を尊敬する大御所スキーヤーの出身地が
モーツァルトと同じく、ウィーンより南に位置する、サウンドオブミュージックでもおなじみの、中世の面影を残す
美しい街、ザルツブルグなのですが、テレビのリポーターが、ヘルマン・マイヤーのインタビューで軽く、
確か「モーツァルトと同じく、世界で活躍されていますが・・」とか「モーツァルトは今年250歳ですが‥」
のような感じで話をふると、彼は一瞬不思議そうな顔をして、考え込んで、あらぬ方向を見た後、こちらを向いて
「ああ!モーツァルトクーゲルの人ね!僕大好き!!」と嬉しそうに答えたのを、リポーターがなんと拾ったら
よいのかわからず、笑いながら沈黙してしまって、CMに突入になったその映像を今でも鮮明に思い出す
ことができます。
ライヴで一緒に見ていた友人と思わず爆笑しながら顔を見合わせたのですが、このモーツァルトクーゲル
というのはオーストリアの代表的なチョコレート菓子で、今、日本でもチロルチョコから売りに出されていて駅の
キオスクでも買えますが、「マジパン」というナッツのペーストをチョコレートでくるんだもので、包装紙に
モーツァルトの肖像画が描かれています。
以前、ストリングという音楽雑誌に留学記を掲載していた際、このモーツァルトクーゲルについて書いたことが
あります。このお菓子が美味しいかどうかはかなり人による、特に日本人にはあまりなじみのないマジパン
というものが好きか嫌いかにかかっているので、味に関しては一度食べてみてとしか言いようがないお菓子
なのですが、ただ鎌倉といえば鳩サブレ―、ウィーン、オーストリアのおみやげといえばこのモーツァルトクーゲル
という不動の地位を誇っていて、もちろんオーストリア人で食べたことのない人はいないはず、つまりモーツァルトの
名前と顔は、スーパーに行けば目に入るし、大量に巷にあふれかえっていて、庶民の生活にも浸透しているわけで、
音楽に携わる身としては絶対王者というか、天才と言えばこの人しかいないだろうという立ち位置、オーストリアと
言えばモーツァルトという断固とした定義が、一般的にも知れ渡っているのだろうと思い込んでいるわけなのですが、
そのいわば神格級のモーツァルトが、天才作曲家、いや音楽家としてではなく、お菓子の顔の人としての認知が
一般的には上で、しかも同郷の国民的スターからしても、チョコのモーツァルトとして断然知られているというのが
衝撃的で面白く、もし日本でもチロルチョコで人気になったとしたら、そのうち世界的にもチョコの人として
広まっていくのではないかと思ったりしています。
昨年のみなとみらいでのリサイタルでは、モーツァルトの唯一の短調のヴァイオリン・ソナタを久しぶりに弾き、
そのシンプルで明快でそしてはてしなく新鮮な音楽が、やはり大好きと、また最近見たモーツァルトのオペラ
「ドン・ジョバンニ」を題材にした「プラハのモーツァルト」という映画の中で、モーツァルトがイケメンすぎるのが
難でしたが、プラハ響が奏でる軽やかで繊細なリズムと強くて優しいメロディーに、新たにモーツァルトファン魂が
熱くなっており、今年こそもっとモーツァルトの曲を弾いていきたいと決意しているのですが、今年は、
バッハ生誕333年とのこと、3月28日は横浜老舗ジャズライブハウス、エアジンのバッハの熱烈な支持者である
オーナーからのオファーで、毎年バッハの誕生日3月31日向けて行われる“バッハ祭り”の中でバッハの
ヴァイオリンソロソナタを始め、バッハにちなんだプログラムでパフォーマンスをすることとなり、まずはこれまた
神格級の偉大なる大バッハに、まずは向き合っている現状です。
バッハに始まりバッハに終わるといわれる、音楽の父バッハですが、意外にも身近でその名前を聞くことが
多いことに驚いています。現IOCオリンピック会長もバッハさんですし、会社などで髪型が長めの白髪で
パワフルなくせっ毛、カールをしている男の人は大体バッハさんとニックネームをつけられるようで、
そして得てして上司で融通が利かない人つけられ、隠語のように使われる傾向なのか、「バッハさんが
そう言っているから(・・」というようなフレーズを耳にすることも多く、なるほど確かに強烈で印象的な肖像画で
他に類を見ないし・・と納得、そのうちバッハのポートレートでお菓子が出回ることもあるのではないか、
モーツァルトよりも見た目が強力だから人目を引いて、売れるんではないかと思ったり、でもあまり甘いイメージ、
3時のおやつのお供、ほっと一息する感じの商品にはなりにくいから、「バッハのピクルス」みたいな路線が
いいのかもと勝手に考えつつ、ヴァイオリンという小さな、そして基本単一のメロディーを奏でるための楽器で、
4声部、合唱曲のような厚みのある音楽を奏でよという、彼の無理難題なはずなのに見事に完成されたヴァイオリン
ソロソナタ、あのかつらは1個しか持っていなかったらしいから、毎日大曲ばかり作ってヒートアップして
(バッハのことだからヒートアップしなかったのかもしれないですが)汗まみれで臭かったに違いない、まあ大変な曲、
そして素晴らしい名曲をつくってくれたものだ!と文句を言いつつ、奮闘中ですので、見た目も中身も超級なバッハの
曲を聴きに来て頂ければ幸いです。
※以下の記事は配信当時のご案内です。
また、4月17日(火)19:30~には横浜赤レンガの人気ライヴハウスMotion Blue Yokohamaにて2年ぶりに
Spring Liveを致します。こちらは、クラシック、ジャズ、タンゴ、ジプシー、アイリッシュとジャンルを超えて、春らしい、
心はずむ楽しい曲をお届けしますので、春の夜、お仕事帰りに港町横浜の薫漂う、赤レンガライヴハウスにお立ち寄り
頂ければ嬉しいです。
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