メールマガジンvol.3
2017年6月

<< 前の記事       次の記事>>

「緑の指」という英語の表現があります。ガーデニングに長けた人のことを指す言葉で、
イギリスのフラワーショーなどに行くと、素晴らしい庭、あるいは気にいった庭の前で
「この人は緑の指の持ち主ね!」という称賛の声がよく聞かれます。
「グリーンフィンガーズ」とカタカナで書いてしまうと、なんだかグリーンピースのようで趣がないのですが、
ガーデニング王国イギリスの田舎町でふと通りかかった庭が(個人の庭を公開しているところも多い)
野趣あふれる、生き生きと見事な庭で、同じく通りかかった人が
「It’s green fingers!−緑の指の仕業ね」と感嘆の声をもらすのを聞くと、
緑色の魔法の杖を一振り、妖精たちが一斉に植物に命を吹き込んでいる様子が連想されて
私はこの言い回しが大好きです。(ちなみに不得手な人のことを茶色の指といいます)

日本の春の象徴といえばなんといっても桜ですが、
イギリスの春の色の愉しみの一つに、森の中一面のブルーベル大群の開花があります。
ブルーベルはヒヤシンスの一種だそうですが、もう少し小ぶりで、瑞々しい青色の花を下に向け
(すずらんのように花が下を向いて咲きます)まるで青いカーペットのように木々の根元に群生する様は、
間違いなく妖精が潜んでいそうな神秘的な光景で、この“ブルーベル(青い鈴)”という語感がぴったり
何千もの妖精が鈴を鳴らすようにささやく様が目に浮かび
「Blue bell season coming soon−もうすぐブルーベルの季節です」
というニュースを聞くと、長く暗い冬が終わり、春がやってくる喜びと共に心が弾んできます。

また、私の春の大好きな花の一つ、ピンク色をしたハート形の花を咲かす
「Bleeding heart(ブリーディングハート)」も、
ピンクのハートから少し先が出てしまっている様子が
まさにBleeding heart =心を尽くしすぎること、同情的すぎるという意味もある=
ピッタリ!と毎年開花を楽しみにしているのですが
この和名はケマンソウ=仏具の華鬘から、別名タイツリソウ=鯛が釣られている様子に似ているから、とのこと、
あふれ出る心情の様子なのか、鯛が竿にかかっている様子なのかでは、
すいぶん花のイメージが変わるではないか!と名前の重要さを感じます。

逆に、和名の素敵な植物も多く、「雪柳」「沈丁花」「木蓮」
「コデマリ(小手毬)」「オダマキ(苧環=機織りの糸を巻いた様子)」など、
見た目もそして響きも様々なイメージを連想させてくれて、
英語の”Meadowsweet (雪柳Meadow=牧草地)”, “Magnolia(木蓮) “ よりも
表現として魅力的に感じるけれど、
でも”Winter Daphne(Daphneとだけ言われることもある=沈丁花)に関しては、
ギリシア神話の中に登場する、芸術の神アポロンの求愛を拒み、自らを月桂樹に変えた女神Daphneダフネ
(それを悲しんだアポロンは永遠の愛の証として月桂樹の葉の冠をかぶるようになった)、
この純潔の象徴として有名な女神が、
いまだ寒さは去らぬけれど、わずかに春の息吹が感じられる冬の終わりに、
白い花に姿を変えて匂い立つ様が目に浮かぶようで
けれど、”ジンチョウゲ″という響きも捨てがたく、
言葉というもの、そしてそこに付随する音の響きは面白いと、
様々な言語での、言葉の響き、そして表現の仕方の多様さにますます興味をひかれています。

イギリスの食べ物で日本人が馴染めないものとしてよくあげられ、
世界一まずい食品といわれることもある、マーマイトというソースがあります
(ビール酵母からできているのりの佃煮のような発酵食品)。
確かに、この味を美味しいと言えるようになるのは至難の業な気がしますが、
このソースを使った”twinglet(トゥイグレッツ=小枝)“
というその名の通り、小枝サイズのゴボウスティックのようなスナックは、
好みは分かれるにしても、なかなかパンチの聞いた味で私は結構好きで、
春先、ロンドンに数ある広大な公園の一つ、東京ドーム68個分ある近所の公園を
このトゥイグレットツをつまみながら、散策するのが私の楽しみの一つです。
それにしてもマーマイトは、もちろんおいしくないことは確かだけれど、
その間延びした名前もよくないのでは、
トゥイグレッツという軽やかな名前だから、こちらはおいしく感じられるのではないかと思われ
また日本のウスターソースのもとになった、ウースターシャーソースという、
実はウスターソースは日本の商標だそうで、イギリス発祥なのに日本が商標を持っているのはおかしいと、
何度かイギリス人に言われたことがありただイギリスの会社に返還されたという話も聞き、
真意は不確かなのですが、この本家大本のソースは、
酸っぱくしたいのか、甘味なのか何をしたいのかわからない微妙な味で、
リーペリンソースとも言われ、どちらにせよやはりこの語感の間延びっぷりが
味の微妙さをさらに増幅させているのではと感じられますし、
言葉の響きとイメージ、そして味覚と五感は密接にリンクしている気がしています。

日本ではゴールデンウィークが終わり、ヨーロッパではイースターが終わり、
夏休みはまだ遠く、気持ちが落ち込むことも多いこの季節、
何気ない言葉のデティールや、景色の変化、そして音楽が日々のエッセンスとして
大いに役立ってくれるのかもしれません。

5月6月共に、個人宅、パーティー、セミナー、そして結婚式、誕生日、創立祝いなど
プライベートな場所での演奏が毎週続きます。日常を少し彩ることができればと願っています。

※以下の記事は配信当時のご案内です。

7月5日(水)7:30pm
東京六本木のライブハウス「六本木クラップス」にて、ライヴコンサートをいたします。
こちらも久しぶりにジャズピアニスト中村新史さんとのピアノ、そしてアコーディオンのデュオとなり、
東京タワーが目の前、雰囲気抜群のロケーションでの、
クラシック、タンゴ、ジプシー、ジャズと様々なジャンルの名曲を楽しんで頂ける
サマーライヴコンサートですので、お仕事帰りに、夜の六本木を楽しみながら、
ぜひ足を運んで頂ければ幸いです。初六本木デビュー、久しぶりに地元を離れてのライヴコンサートですので、
どうぞ皆様お誘いあわせの上お越し頂ければと願っています。
お申込み詳細はhttp://itokanoh.com/info.html
C*laps http://c-laps.jp/ticket/?mc_id=1371&ticket=ticket-on