Programnote 2018

- - 加納伊都ヴァイオリンリサイタル - -

イーゴリ・ストラヴィンスキー イタリア組曲(バレエ音楽「プルチネラ」より)
第1曲 Introduzione 序奏
第2曲 Seranata セレナーデ
第3曲 Tarantella タランテラ
第4曲 Gavptta cpm die variazioni 2つの変奏を伴うガヴォット
第5曲 Minuetto e Finate メヌエットとフィナーレ
ロシアの作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)は、様々なジャンルで、様々な作風の作品を残した、20世紀を代表する作曲家の一人である。特に初期のプリミティヴィスム(非西洋文明または先史時代の人々の文化などを採り入れた芸術。ピカソもその一人)スタイルのバレエ音楽、「火の鳥」、「春の祭典」は音楽会にセンセーションを巻き起こした。その後作風は新古典主義(古典的で明朗な旋律、様式への回帰)、セリー主義(12音階使用)と推移、20世紀音楽の祖、多様な音楽形態の生みの親とも言われる。
5曲からなる組曲「プルチネラ」は新古典主義を象徴する作品で、ロシア人名プロデューサー、セルゲイ・ディアギレフに率いられイタリア音楽にもとづくバレエを制作していたバレエ団バレエ・リュスの依頼で、18世紀のイタリア人作曲家ベルコージの旋律をベースに、ストラヴィンスキーが手を加えたバレエ音楽「プルチネラ」(1920年作 パリ初演。舞台美術と衣装はピカソが担当した)を作曲者自身が編曲し、1925年初演された。
あらすじは「ナポリの道化師で色男のプルチネッラは、言い寄った2人の娘の恋人たちに殺されそうになるが難を逃れる。プルチネッラがシンだと思い込んだ村の人々は、彼の亡霊が出たと大騒ぎするも、最後はみんなで和解し、プルチネッラは美しい村の娘と結婚する」というハッピーストーリー。

- 確か中学1年生、初めてバーンスタイン指揮、ニューヨークフィル演奏、ストラヴィンスキー「火の鳥」の録音を聴いたときの電気ショックのような衝撃は、体の記憶として深く刻み込まれ、今でもその感覚を瞬時に鮮明に思い出すことができます。世界の音をこのように確立し、定義してよいのだと、既存の物が必ずしも正しく、真実であることはないのだと、新しい、ちょっと大人な感覚を教えてくれたストラヴィンスキーは、私にとって、ピカソやダリと同系統のぎょろりとした目とやたら大きな鼻の威圧感のある顔と相まって、憧憬と畏怖の入り混じる、ぜひ会ってみたいけれど、近くの柱の陰から見るだけで十分、もし叶うのなら一緒に写真をとって、生涯の宝物にしたい・・そんな存在です。
このプルチネッラは同じバレエ音楽でも火の鳥の怒濤のごとき音の渦とは真逆、モーツァルトを思い起こさせる古典的な旋律は、弾いている奏者も思わず楽しくて微笑んでしまうほどで、でもその中に時折現れるストラヴィンスキーらしい前衛的なフレーズに、はっとするサプライズもあり、まさにクリスマスシーズンにぴったりの1曲です。
クロード・ドビュッシー ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
第1楽章 1st Mov. Allegro vino 素早く
第2楽章 2nd Mov. Intermede. Fantasque et leger 間奏曲 幻想的かつ軽快に
第3楽章 3rd Mov. Finale. Tres anime 終曲 きわめて活発に

絵画ではモネやルノワールなど、19世紀後半のフランスに発した印象主義を代表する作曲家クロード・ドビュッシー(1862-1918)が死の1年前、1917年に作曲したヴァイオリンとピアノのためのソナタ。すでに癌に侵され、その苦痛に耐えながらも様々な楽器のための「フランス人の感覚に立つ」6つのソナタ連作を着想し、その3番目にあたるこのソナタが、ドビュッシー最後の作品となった。3つの楽章からなり、まず最終楽章(第3楽章)が作曲され、その4ヶ月後に2楽章、1楽章が完成、作曲家自身のピアノで初演された。(生涯最後の公開演奏)ヴァイオリンとピアノがそれぞれ同時に旋律を奏で、交わることで全体像が浮かび上がるという、従来の、互いにサポートあるいは伴奏をするというソナタとは一味違う雰囲気を生み出している。

- ロシア人のピアニストから譲り受けたこのドビュッシー、ヴァイオリン・ソナタの楽譜(ロシア出版社版)にはタイトルの下にブロック体で大きく【COHATA】と書かれています。ロシア語で「遺作」という意味ですが、フランス版オリジナルの楽譜にはこの記載はなく、おしゃれに小さく「Sonata pour violon et aiano」と記されているのみ、もちろん中身はまったく同じながら【遺作】と銘打たれ、一つ一つの音符も黒々と大きく、ページ数はオリジナル版の1.5倍のロシアバージョンと、強弱記号や表記も斜体でこじんまりと、目を凝らさないと判別がつかないフランスバージョンを使って演奏するのは、なんだか曲の雰囲気まで違ってくるような、ロシア版を目の前にすると、死を直前にしたドビュッシーが何を思い、自分の人生を振り返っていたのだろうか、月の光や牧神の午後への前奏曲など、幻想的で優美な曲の数々を残し、気難し屋で女性関係のトラブルも絶えなかったという、印象派時代を代表するこの作曲家の最後の日々はどんな様子だったのだろうかなど、思いを馳せ、ドビュッシーの他の作品とは一味違う濃厚な曲に思えてきます。
初めてこの曲を弾いた10代のころ、遺作という言葉の意味はわかるけれど、自分からはるかかなたに存在する事柄で、この曲のフレンチらしい、流れるような柔らかなメロディーラインになぜか、ふわりと感情を乗せ、なめらかに演奏できないことに弾きにくさを感じていました。10年以上経て今回、改めて遺作という言葉を頭にこの曲の旋律を感じる時、この曲の持つ時を重ねた思いが、流麗なフレーズがただ優しく楽しく演奏されることを拒んでいるのではないかと感じます。当時、Itoには向きそうな曲なのになにか違う!と言われ、何度もトライしたけれど最終的にItoにDebussyは向かないのね!と押されたレッテルを返上すべく、没後100年の今年、ドビュッシーに少し近づいて演奏することができればと思っています。
カロル・シマノフスキー 夜想曲とタランテラ 作品28
「楽
ヨハネス・ブラームス ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 作品100
第1楽章 1st Mov. Allegro amabile 速いテンポで、甘く
第2楽章 2nd Mov. Andante tranquillo 歩く速さで、穏やかに
第3楽章 3rd Mov. Allegretrto grazioso 速いテンポで、優雅に
ピョートル.チャイコフスキー ワルツ・スケルツォ 作品34
文/加納伊都  
Piano 村上明子