Programnote 2008

- - 加納伊都ヴァイオリンリサイタル - -

曲名をクリックすると約30秒間視聴することが出来ます。
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※少しずつ視聴可能にしています。

G.F.ヘンデル
ヴァイオリンソナタ 第6番 ホ長調 作品1-15
アダージョ
アレグロ
ラルゴ
アレグロ
大作曲家J.S.バッハと同じ1685年に、同じドイツで生まれたG.F.ヘンデルはオペラを一つも書かなかったバッハとは対照的にオペラやオラトリオなど劇場音楽の分野で活躍した。オラトリオ「メサイヤ」の中の「ハレルヤ・コーラス」、管弦楽曲「水上の音楽」などが有名。
1712年にロンドンに移住し、イギリスに帰化。バッハに遅れること9年、1759年イギリスで死去した。そのためイギリスの作曲家として扱われることもある。
このヴァイオリンソナタは1722年頃、ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ作品1の中の6番目のソナタとして発表された。緩-急-緩-急の4つの楽章からなる教会ソナタ形式で書かれている。

*私はこのソナタも含めてヘンデルのソナタが大好きです。教会で演奏を頼まれるとオルガンとの相性も良いため、よく演奏します。特にこの第6番は和声的で、ヴァイオリンという単旋律の楽器を弾いているのにも関わらず、たとえば小編成のオーケストラを一人で弾いているような、ふくよかな和声の広がりを感じます。ドイツから一歩も出なかったバッハと違い、自由に諸国を飛びまわり、国際的に活躍したヘンデルの明るく親しみやすい旋律を楽しんでいただけたらと思います。
R.シューマン
幻想小曲集 作品73
第1曲 やさしく、表情を持って
第2曲 生き生きと、軽く
第3曲 急速に、燃えるように
ロマン派を代表するドイツの作曲家R.シューマン(1810〜1856)は作曲家としてだけでなく音楽評論家としても有名で、若きブラームスの才能を誰よりも早く認めていた。名女流ピアニストであった、妻クララとブラームスの関係を疑っていたこと、晩年は精神を病み、全ての食をたって46歳の若さで亡くなったことはよく知られているが、その繊細な性格は彼の音楽にも強くあらわれている。
幻想小曲集は1849年、シューマンの精神が少しづつ均整を失い始めたころに作曲された。もともとクラリネットとピアノのために書かれたもので、表題にシューマン自身の手で「夜想曲」と記されている。

*シューマンはヴァイオリン曲をあまり作曲せず、彼のコンチェルトやソナタは、ああこの人はあまりヴァイオリニストのことを考えて作曲しなかったんだな…と苦笑いしてしまう、演奏しにくい部分が多々ありますが、その心のそこから切々と訴えかけるようなメロディーは、演奏者自信を切ない、どうしようもない気持ちにさせてしまうちょっと麻薬のような力があり、今回、この曲はあまりヴァイオリンで弾かれることはないのですが、その哀切なメロディーの魅力に抗えず、演奏することにしました。
E.ショーソン
詩曲
フランス近代の作曲家、E.ショーソン(1855〜1899)は、19世紀末のパリにて交響曲やオペラまで幅広い分野の音楽を手がけた。セザール・フランクの高弟で、「タイスの瞑想曲」で知られるマスネの弟子でもあり、若くしてフランス楽壇でおもきをなしていた。
詩曲が作曲されたのは1896年、ショーソン41歳のときであり、当時ヴァイオリンの巨匠イザイに捧げられている。この3年後、自動車事故で不幸な死を遂げた。

*「詩曲(ポエム)」というなんともロマンティックな名前がついているからには、誰かの詩をイメージしたものか、何かの詩にインスピレーションを受けて作曲されたものと思いきや、そのような記述は残されておらず、私の想像ではこの曲自体が一つの詩を朗読するように演奏して欲しい、というショーソンの願いなのではないかと思います。確かに「詩曲」以外のなにものでもない、ミステリアスでノスタルジックな曲想、言葉ではなく音で、物語が語れればと思います。
E.イザイ 無伴奏ヴァイオリンソナタ 作品27 第2番
第1楽章 執念
第2楽章 憂鬱
第3楽章 亡霊たちの踊り
第4楽章 復讐の女神たち
「詩曲」を捧げられたE.イザイ(1858〜1931)は19世紀を代表するベルギー出身のヴァイオリニストで、ヴァイオリン音楽に大きな影響を与えた一人。バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」に影響を受けて作曲されたこの無伴奏ソナタは、バッハと同じく全6曲からなるが、バッハとは違いそれぞれ自由な形をとっている。たとえば、1楽章だけのもの、バロック時代の組曲を自由化したもの。
それぞれ表題を持つ4楽章からなるこの第6番は1楽章の冒頭、バッハのパルティータ第3番の前奏曲の旋律で始まり、形式も同じ前奏曲、表題は「執念」。イザイがバッハに抱いていた執念、あるいは情熱が感じられる曲である。フランスのヴァイオリニスト、ジャック・ティボーに捧げられている。グレゴリオ聖歌「怒りの日」の旋律が全楽章を通じて使われている。

*表題だけ見ると、なんだか暗く不吉で恐ろしい感じで、捧げられたジャック・ティボーもなぜ自分にこの曲なのか大いに考え込んでしまったのではないかと思われますが、曲を聴くと、いたって素朴な旋律や、少しケルト音楽に近い民族的な部分、ハープやバグパイプを模したのではと感じるところ、様々な要素が取り込まれ、私は、たくさんの登場人物の出てくるお芝居を演じているような心持ちがしています。全編に流れる「怒りの日」の旋律、1楽章の始めの方から登場しますので、追いかけてみると、楽しいかもしれません。
E.グリーグ
ヴァイオリンソナタ 第3番 ハ短調 作品45
第1楽章 アレグロ・モルト・エ・アパッショネート
第2楽章 アレグレット・エスプレシーヴォ・アラ・ロマンツァ
第3楽章 アレグロ・アニマート
昨年没後100年を迎えた、ノルウェーの作曲家E.グリーグ(1843〜1907)は、同じくノルウェーの作家イプセンの戯曲「ペール・ギュント」への劇音楽で有名だが、その他にもピアノ協奏曲や歌曲などノルウェーの民俗音楽に着想を得た作品を数多く残した。
3つあるヴァイオリンソナタの中で、1、2番よりもかなり時間がたってから作曲されたこの第3番は、彼の最高傑作とも言われるほどの人気の曲であり、演奏者にとってもリサイタルの重要レパートリーの一つとなっている。

*「君を愛す」というなんともダイレクトでロマンティックな歌曲を残したグリーグ、このヴァイオリンソナタの中にも、たくさんのロマンティックなメロディーが登場します。一つの冒険と愛の、神話的なおとぎ話を聴かせるように、演奏できればと思っています。
文/加納伊都
- アンコール -

Piano 荒井裕子