Programnote 2007

- - 加納伊都ヴァイオリンリサイタル - -

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F.シューペルト
ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ 第1番 ニ長調 D.384
第1楽章 アレグロ・モルト
第2楽章 アンダンテ
第3楽章 アレグロ・ヴイヴァーチェ ロンド形式
『冬の旅』や『魔王』などの歌曲作曲家として知られるフランツ・ベータ一.シューベルト(1797〜1828)は、教師の息子としてウィーン近郊で生まれ、幼いころより音楽への類まれな才能を示し、今や世界的に有名となったウィーン少年合唱団(当時は宮廷礼拝堂コーラス)にて音楽的教育を受けた。その後、兵役を避けるために父親の経営する学校の助教員として働きながら、作曲家として世に認められようと創作活動に励んでいたころ、その頃楽しまれていた、シューベルト家をほじめとする家庭コンサートのために1816年、シューベルト19歳のときこのソナテネは作曲された。
*この曲が作曲されたのは彼の最初の傑作歌曲<魔王>を作曲した翌年、教員生活が肌に合わず、作曲家としての自立を目指していた頃、記録によるとものすごく貧乏だったそうですが、たぶん自由に作曲できる喜び、「私は一日中作曲しています・・・1つ完成するとすぐ次の曲を始めるのです・・・」と語ったように旺盛な創作意欲、そして彼を支えようとする友人たちに囲まれた若いシューベルトの音楽に対する愛情がこのかわいらしい作品にほ溢れているような気がします。
L.ベートーベン
ヴァイオリンソナタ 第5番 ヘ長調 「春」 作品24
第1楽章 アレグロ
第2楽章 アダージョ・モルト・エスプレツシーヴォ
第3楽章 スケルツオ アレクロ・モルト
第4楽章 ロンド アレグロ・マ・ノン・トロッポ
いわずと知れた大作曲家ルードヴイッヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770〜1827)のいわずと知れた名曲、ヴァイオリンソナタ第5番「春」が作曲されたのは1801年、まだ「初期」といわれる時代の作品。しかしすでに持病の難聴は悪化しており、翌年には自殺を考えた(ハイリゲンシュタットの遺書を書いた年)ほど音楽家としての絶望に苦しんでいた時期でもある。「春」という名称は他の多くの作品の名称と同じようにベートーヴェンがつ1ナたものではなく、明るい希望に満ちた旋律、柔らかで伸びやかな楽想から後に誰かが命名したもの。全楽章を通して、影響を受けたモーツァルト、ハイドンの手法からさらに発展し、自由奔放なロマン派的傾向が強くあらわれている。

*このきっと誰でも一度は耳にしたことがあるであろう、「スフリングソナタ」の冒頭のメロディー、なんとものどかで、「春」という題名がぴったりの旋律ですが、これがいざ弾いてみると意外と難しく、流れるようになかなか弾けないのだけれど、いくらあせってみたところで、あたりまえだけれど旋律は相変わらず、長閑で美しい・という事実が、初めてきちんとこの曲に取り組んだ今回、私にとって一番の難題でした。自然をこよなく愛し、自然の中でインスピレーションを湧かし作曲することの多かったベートーヴェン、時には木に登って着想を練っていたそうですが、ほとんど聞こえない耳の奥で、このような明るく希望と喜びに満ちた旋律を鳴らしていたベートーヴェンの心中を思うと、その音楽への信頼、憧憬の深さはとても私の及びも着かないものなのだとあらためて、天職、もしくは天才という言葉は幻ではないのだということを思い知らされました。
E.イザイ
無伴奏ヴァイオリンソナタ 第5番 ト長調 作品27-5
ベルギー生まれのヴァイオリンの巨匠、ウジエーヌ・イサイ(1858〜1931)はヴィエニアフスキやヴュータンに学んだ優れたヴァイオリニストであり、また数多くのヴァイオリン曲を残した。その功績を称えて創られたのが、世界3大コンクールのーつとして知られるエリザベート国際コンクールの前身であるイザイ国際コンクールである。
無伴奏ヴァイオリンソナタiよ彼の代表作であり、全部で6曲あるソナタは全てイザイゆかりの人々に献呈されている。この第5番は彼がブリュッセルの王立学院で後進の指導にあたっていた際、一番の愛弟子であったやほり優秀なヴァイオリニストのマティウ・クリックホームに捧げられている。2つの薬毒からなり、第1楽章は副題が「L’Aurore(オーロラ)」彫本語訳で「あけぼの」とついており、第2楽章は「田舎の踊り」と題されている。

*無伴奏ヴァイオリンソナタは6曲全て、高い演奏技術を求められますが、この第5番はその中でもひときわ難しいと認識されています。前回のエリザベート国際コンクールを聴きに行った際、挑戦者が次々とこの曲を弾くのに触発され、いつかコンサートで弾こう!と心に決めました。ヴイブラート技法を確立したといわれているイザイのヴァイオリニスティックで華麗、そして現代的な技法を楽しんでいただけたら・と願っています。
A.ドヴォルザーク 4つのロマンティックな小品 作品75
第1曲 アレグロ・モデラート
第2曲 アレグロ・マエストーソ
第3曲 アレグロ・アパッシオナート
第4曲 ラルゲット
民族音楽に深く影響を受け、その融合を試み独自の作風を世に送り出した、チェコを代表する作曲家アントニン・ドヴォルザークが、その作曲家としての最盛期にサロン的なコンサートのために作曲した小品。元は弦楽三重奏用に作曲したものを、すぐに自身の手でヴァイオリンとピアノ用に編曲した。全部で4曲からなりゝ当初は第1曲から順に「カヴァティーナ」「カプリッチョ」「ロマンス」そして「エレジー」という題をつける予定だったのが、なぜか出版に際しては速度指定しかつけられなかった。

*実はドヴォルザークという作曲家が今まであまり好きでなく、なんか土臭いというか、お酒落でないような気がしていて演奏するのを敬遠していたのですが、今年チェコでコンチェルトなどの大曲ではない彼の小さな作品を演奏する機会が何回かあり、実に親しみやすいロマンティックな旋律、叙情的な和声に、好感度が一気にアップ、何か小品を・・と言われると、それではドヴォルザークの小品を・・・と答えるほどになりました。ちなみにチェコで出会った音楽精神分析学(たぶんそのような意味の研究だと思います)の先生に私の分析をしていただいた結果、作曲家のなかで私と一番相性の良い、精神構造が似ている作曲家はこのドヴォルザークだそうですので(ドヴォルザークに失礼ですが!)彼に失礼のないよう、少し切なくてアンニュイなドヴォルザーク独特の世界、空気感を伝えることができれば嬉しいです。
F.ワックスマン
カルメン幻想曲
フランツ・ワックスマン(1906〜1967)は、クラシックの作曲家というより、映画音楽の作曲家として有名である。ドイツ生まれだがユダヤ人だったためナチスに追われ、アメリカ亡命後、映画の都ハリウッドにおいて32年間に188本の映画音楽を作曲した。その中には2年連続でアカデミー音楽賞を受賞した「サンセット大通り」や「陽のあたる場所」、他にもヒッチコツク「レベッカ」「尼僧物語」などハリウッド黄金期の頂点を極めた映画古楽家といっても過言ではないだろう。このカルメン幻想曲はおなじみビゼー作曲のオペラ「カルメン」をヴァイオリン用に編曲したもの。アメリカで活躍した20世紀を代表するヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツのために作曲された。「カルメン」をさまざまな楽器、編成用に編曲したものは数多く、ヴァイオリン用にも知られているだけでサラサーテ作曲など3曲あり、このワックスマン版はその中でも一番テクニックを要求される編曲として有名。

*あまりにも有名で、耳に貰れ親しんでいる曲ばかりの「カルメン」ですが、私にとって落ち込んだとき、テンションが上がらないとき聴いてしまう曲(オペラ)のーっで、何時聴いてもああ本当にいい曲ばかりだなあ・・・と感動してしまうのですが、聴いているのと、このヴァイオリン用編曲、ワックスマンバージョンを弾くのとは大違い、素敵なメロディーに感動する余裕すら持てず四苦八苦を続ける日々。カルメンの情熱を分けてもらって演奏したい・・・と思っています。
文/加納伊都
- アンコール -
浜辺のうた

Piano 栗原央美